皆既日食

子どもの頃、家でモルモットを飼っていた。

母がガレージで小屋を掃除しているとご近所さんがやってきたそうだ。そしてモルモットの足元に転がっている粒を取り上げて、「へえ、これがエサ?」と言った。

でもそれはうんこだったので、母は違うと言った。

母がその日の晩にそう話していた。

そのときの返事を端的に言うと

「いいえ、それはうんこです」

だっただろう。

「いいえ、それはうんこです」

バカな子どもが英語の時間にふざけて言うような会話が本当にあった。

冗談みたいな会話が本気で交わされた瞬間、これはこれで皆既日食ぐらいの貴重な瞬間だと思う。「いいえ、それはうんこです」

仕事みたいなゲームばかりやっている

パソコンでゲームをするようになった。

いちばんやっているのはトラックの運転ゲーム。荷物を指定された場所に運ぶゲームである。仕事だ。

次に買ったのがパソコンを修理するゲーム。

客から壊れたPCを受け取って、部品を交換する。交換したらまた箱に詰めて廊下に置いておく。完全な仕事である。

バスの運転ゲームもしばらくやっていた。このゲームの醍醐味は停留所にとめるだけではなく、チケットを売ってお釣りを渡す、車内のゴミを拾う、ヘッドホンで音漏れしてる客を注意するという細かい仕事があるところである。

この客には間違えてお釣りを多く渡したが「Thanks!」と言って座った。そして運転手にはペナルティが課された。バスの運転手の無念さが体験できる。

こんなゲームばかりやっているとSteam(ゲームのプラットフォーム)のほうも好みがわかってきて、仕事ゲームばかり推してくるようになってくる。

最近買ったのは高圧洗浄機のゲームだ。黙々と汚れを落としている。

パソコンでゲームではなく、仕事をしている。どのゲームでも、ゲームだから適当にやろうという気持ちは起こらず、事故を起こさない、きれいに汚れを落とそう、納期を守ろうという気持ちになる。

デイリーポータルZを20年近くやっていて、いまだにこれ仕事なのかな?と思うことがある。ゲームの世界でカチッとした仕事ばかりしてしまうのは、無意識にバランスを取ろうとしているのかもしれない。

最近、デイリーポータルZのために撮った写真。ゲームっぽくはない。

人生が忙しい

「~したい」ということをよくツイッターに書いてるなと思って検索したら大量に出てきた。
分かりやすいものだけ抜粋した。

  • スマホを海に放り投げるところから始める合宿したい(2021.5.23)
  • 知らない人とお中元の交換がしたい(2021.5.19)
  • バーチャル背景みたいな部屋にしたい(2021.5.16)
  • ダーツとかビリヤードとか90年代っぽい遊びをしたい(2021.3.21)
  • 逆にカフェを改造して蔵にしたい(2021.3.9)
  • サンシャイン牧場ぐらい忘れてることを思い出したい(2021.2.26)
  • 初対面の人だけで懇親会したい(2021.1.29)
  • ポツダムに行って「ズボンとパンツを同時に脱ぎません!」とか個人的なことを宣言したい(2021.2.23)
  • プラネタリウムにパワポ投影したい(2020.10.15)
  • 誰もいない里山でひとりでカラオケしたい(2020.10.5)
  • 地方都市のビジネスホテルで朝食たべてから二度寝したい(2020.8.5)
  • 屋形船貸し切って1日そこで仕事したい。コワーキング屋形船(2020.4.11)
  • 本当のコートダジュールでカラオケがしたい(2020.1.6)
  • 日本中のトリックアート美術館をコンプリートしたい(2017.8.28)
  • 屋形船で世界一周したい(2017.8.15)
  • 実際に網走でいちばん左遷っぽい支社を探したい(2017.8.15)
  • 成田でどこに行くか決めるような旅行がしたい(2017.3.29)
  • 中央線が休日は阿佐ヶ谷を通過することとかを踊って表現したい(2016.12.27)
  • なんにも報道されてないのに「本日の一部報道について」という発表をしたい(2016.10.18)
  • パイプ椅子を持って世界を旅したい(2014.6.20)
  • 札束風呂に車輪とエンジンつけて走るように改造したい(2014.5.4)
  • リカちゃん人形の目を渦巻きにしてモーターでぐるぐる回したい(2014.2.17)
  • 糸魚川で石拾いしたい(2013.9.25)
  • いま日本でチャックあいてるひとの分布をアメダスみたいに可視化したい(2013.6.2)
  • 街コンじゃなくて崖コンを企画したい(2013.5.30)
  • 校長先生が朝礼で話してるときに、その横に3人のスーツの男が1本のマイクにむかって立って殿様キングスみたいにしたい(2012.10.16)
  • 海賊版デイリーポータルZと称して全員海賊の格好で登場したい(2012.7.13)
  • どうでもいいものをインフォグラフィックにしたい(2011.11.7)
  • ぬめぬめした生き物を集めて「ぬでしこジャパン」を結成したい(2011.9.6)
  • おれ社長になったら、「すぐやる課」の横に「すぐくさる課」も設置したい(2011.8.25)
  • アルマーニのシャツの胸に養老の瀧と刺繍して台なしにしたい(2011.7.19)
  • 渋谷に「はやし」というラーメン屋と「ゆうじ」という焼き肉屋があるのではしごしたい(2011.6.15)
  • ポケモンスタンプラリーの偽スタンプ台を勝手におきたい。五反田駅の偽スタンプは「女王様」とかにして子どもを惑わしたい(2010.7.29)

常にやりたいことがあって我ながらポジティブだと思う。

50歳になって、いよいよ全部ちゃんとできるだろうかと焦ってくる。カフェを蔵に改造したり、フランスのコート・ダジュールでカラオケをしたり、プラネタリウムでパワポを投影したり。ぬでしこジャパンも結成しなければならない。

iDeCoの書類を書く、とかが「なきゃ」にならないのが構造上の欠点ぽい。

ノンアルのレビュー

酒をやめて2ヶ月がすぎた。

未練たらしくいろんなノンアルビールを買っては試している。そこで気づいたのが、amazon・楽天のノンアル商品のレビューにはたいてい「ほぼビールだ!これで酔える」という書き込みがある。
ノンアルビールでもノンアルワインでもある。
ほぼファンタじゃんかよ、というノンアルワインにもそういうレビューがあった。

あれはレビューではなく、自分に言い聞かせている声だ。

「もうおれはこれで十分だ」「酒とおさらば」「ハロー健康!こんにちは新しい自分」

その思いが書かせたレビューだ。

その一方で、必ず「甘い」「ビールではない」といったレビューもある。

「これで酔える」と書いている人も薄々気づいているだろう。(甘いな…)(ビールではないな…)。でもそれを知ってて「おれはこれで酔える!」と書いているのだと思う。

ふたりが同じ場所にいたら口論になるだろう。「思い込んでんだからそういうこと言うなよ!」「っつったってビールじゃないだろが!」

ふたりではないな。「これで酔える」も「ビールじゃない」は同一人物だろう。ひとりの脳内会議だ。

酒をやめたい人の中で渦巻く相反する声は、そのまま「酒をやめたい人」の集団から出てくる声の縮図だ。ひとりの人格と集団の人格が相似。酒をやめたい人はゴンズイ玉だ。

「梱包が良かった」「くさい」というレビューがもまた集団の一部でもあり、僕の一部でもある。

「地図なぞり」という本が出ます

地図をなぞるだけの本が出ます。「地図なぞり」7月7日発売。

もうamazonでは予約できるので今すぐ予約しましょう。(amazonへのリンク)

監修はあの古橋大地先生!養老孟司さん推薦!

有名かどうかよりも、なぞって楽しい地形を厳選しました。三陸のリアス海岸、サロマ湖、風蓮湖…。くちゃくちゃっとした線をなぞっているとあっというまにゾーンに入ります。比喩ではなく時間が溶けます。

意外に東京湾のカクカクした人工的な線もいいんですよね。台風の進路や分水嶺、石狩川は三日月湖だらけの地域を載せてます(みんな三日月湖好きでしょ)

▲もくじ

台風の進路をなぞっていると、真っ黒な海の上を孤独に進んでいる台風の気分になります。台風はマニアも納得の珍しい進路の台風を厳選。小笠原航路の線はほぼ直線なんですが、それだけに遠さを感じます。あと、関門海峡をすり抜ける航路は思わず息が止まります。

しまなみ海道は島から島へと渡る道をなぞってください。おお、こう来たか!と脳内で歓声があがります。橋げただけの島とかあるんですよね。

14年前、しまなみ海道から撮った写真。あの小さい島を上からなぞりたいと思った願いが叶いました。

まだ絶賛校正中で手元には赤字だらけのものしかないですが、野付半島もあるし、能登半島には能登島もしっかり入ってます。

最後のページは、東京から名古屋まで、東海道新幹線、東名高速、中央自動車道、リニア新幹線の路線を比べてなぞれる地図になってます。それぞれが富士山をどう避けるか、これまで避けるしかなかった南アルプスをリニア新幹線は突っ切ってるのが分かります。

細かすぎるとなぞれないので、ほどよくなぞれる線に丸めてあります(この作業が大変だった!)。製本も閉じにくい特殊な方法でなぞりやすくなってます。コーヒー用意してSpotifyとか聴きながらなぞると多幸感が溢れてきます。

そして移動が自由になったらここに行っておかないといかんな、という楽しいタスクを与えてくれます。

7月7日発売です。なぞって満足したらもう1冊買ってください。(amazonへのリンク)

模様になる千万両

海外のサイトに載っていた招き猫の画像を見てて気づいたのだが、小判に書いてある「千万両」の文字が模様になっている。


これが日本製の招き猫。「千万両」の文字は、読める


くっついて模様になってきた


細くなって模様として洗練された


完全に模様になった。

招き猫は海外でも人気があるらしく、海外で生産されているものもある。

海外の人がじゃあうちでも作るか!と思ったときに「千万両」という文字とは思わずに、なんがグニャッとした黒い模様を入れておけばいいんだなと思うだろう。コピーのコピーかもしれない。

かつて意味があったけどただの模様になったもの。埴輪とか沖縄の「のまんじゅう」のようだ。(最初「のし」と書いていたけどいつからか「の」だけになったらしい。)それがリアルタイムで起きている。

しかしこういうのって100年ぐらいかけて変わっていくのがグローバル化なのかネットのせいなのか短期間で起きているのがおもしろい。

まったく読めない招き猫が欲しい。

耳が落ちている

家に耳が落ちている。

去年の12月にシリコンの耳がついているカチューシャを作った。マスクを掛けていると耳が痛くなるから耳を追加できます、という冗談の工作だ。

だが、これをメイカーフェアに持っていったところ好評で「これは売れる」と3人に言われた。商品化を決意してその晩にアリエクスプレスで追加の耳を購入した。

商品が届くまでの半月ほどの間にすっかり作る気は失せて、届いた耳は本棚の上に放置した。

本を出したときに耳が落ちたようで、このまえ床に耳が落ちているのを発見した。

シリコンの耳はなぜか水分が染み出して、床にシミを作っていた。

床の上の耳が汗をかく。

抽象のようだが具象である。

グレイのうちわ

4月1日から新しい会社で働く。

デイリーポータルZが事業譲渡されるのでそれに伴っての退社&入社である。(イッツコム→東急メディア・コミュニケーションズ)

退社前に会社のロッカーを整理していたらうちわが出てきた。

1999年のグレイライブのビデオ(!)とDVDの販促うちわだ。このライブビデオが2000年発売なのでその頃もらったものだろう。

残業時間は空調が切れるのでうちわであおぎながら仕事をしていた(昭和か)

使っては書類立てに戻し、幾度とあった会社の引っ越しや転籍も乗り越えていまだに持っている。21年だ。HMVで通りすがりにもらったうちわを21年。


↑うら

僕の30、40代とは、言い換えればこのうちわを使っていた時間だった。

「私の会社員人生の傍らには常にこの万年筆が…」とかだと私の履歴書みたいでかっこいいのだが、なにせ販促うちわだ。

しかもグレイのファンというわけではない。ただ、これであおいでると深夜のオフィスで仕事をしている気分にはなる。顔が汗ばんで酸っぱい匂いがしていた。

新しい会社でもらった書類に定年は60歳と書いてあった。あと10年。先はこのうちわを使った時間よりも短いのか。

しんみりしてもやっぱり販促うちわなので、しんみりしきれない。

みそ汁エアホッケー

一昨年、サンフランシスコ郊外に泊まることになったとき、Airbnbでエアホッケーつきの部屋を見つけたのでそこにした。

みそ汁のお椀でエアホッケーができるな、と思ったからだ。

濡れたテーブルの上にみそ汁のお椀を置くと、ぴったりくっついてツツツーと滑るだろう(超電導のように)。

あれをエアで再現して、しかもエアホッケーとして遊べたら最高じゃん。

興奮してスーツケースにみそ汁のお椀を入れた。

だが、お椀は重すぎてエアホッケーの台から出るエアーでは浮き上がらなかった。

エアホッケーの板(パック?)はすごく軽いのだ。

お椀はまた日本に持って帰ってきて使っている。

カップスターの模様

カップスターのパッケージで気になっていることがある。

線が波模様になっていることだ。

平らなパッケージに波うった線が描いてある。

かつてカップスターの容器には波状になった紙が巻いてあった。カップヌードルのように発泡スチロールを使わず、紙だけで熱さが伝わらないようにする工夫だった、のだと思う。

そのときカップスターのパッケージに描かれた線は波をうっているように見えた。
デザイン的にはまっすぐ引きたかったのだろうが、容器の仕様上、そう見えていたのだ。


サンヨー食品のホームページに昔のパッケージの写真があった。https://www.sanyofoods.co.jp/company/history/

そしてしばらく経ってコンビニで見かけたカップスターはつるつるの容器になっていた。お、メジャーな感じになったな!

だが、そこに描かれた線は波を打っているように描かれていた。かつて、そう見えていたのを再現しているのだ。

カップスターの会社はあの波線にそんなに思い入れがあったのか。

そして、かつてカップスターが波うっていたことを知らない世代には、「なぜか線が波うってるカップラーメン」に見えてしまうのではないだろうか。


ビニールのバランのような、「かつては意味があったけど今となってはただの模様」でとてもおもしろい。